自然栽培、食、生命、地球のこと

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ハミングバード

おいしいはしあわせ

スーパーの食品が食べられない化学物質過敏症の母

もともと母がすごく病弱で1日起きたら3日寝込むような状態でした。病院に行ってもよくわからなくて、診断は「全身神経痛」。いまだったら化学物質過敏症と言われたかもしれないですね。スーパーで売っているような一般のものは食べられない。農家さんから直接、野菜やお米を送ってもらっていました。そうやって食事を変えたら徐々に良くなっていったんです。衣類なども市販のものは受け付けない。オーガニックコットンが世の中に出てきて、そういう下着に変えてからはだいぶ楽になったみたいです。

私は、どちらかというと食に無関心でしたが、それが変わったのは高校2年生のときです。母が農家に宛てて書いたハガキをたまたま読んでしまった。 「いつも美味しくて安全な野菜をありがとうございます。おかげさまで、家族みんな健康で過ごすことができています」っていうような内容だった。その農家さんが農薬を使わない栽培をしていたんです。こんなに感謝される職業があるということに感動してしまって、「これからは農業だ!」って思った。高校の先生にどうしたら農家になれるのかと聞いたら、「農家になりたいなんて言われたのは、うちの高校始まって以来初めてだ。わからないから自分で考えろ」と言われました(笑)。いろいろ調べるうちに、九州東海大学に自然農を研究している片野學先生がいるのを知って、受験したんです。

片野先生の教えは、私の根本になっています。先生は、「生活が一番大事だ」と教えてくれました。そのなかでも「食」が特に大事で、食べるということは、ブランドや、「自然栽培」「無農薬」という“レッテル”を食べることではないとおっしゃっています。

流通業者よりも八百屋のオヤジになりたかった

大学を出て、縁あって福岡県の有機農産物を取り扱う流通業者に就職しました。いまはもうありませんが、当時できたばかりの会社だったので何でもやらされた。
栽培記録を元に農家へ調査に行くと、無農薬米で契約しているのに実際は除草剤使っているような人もいました。「これ除草剤じゃないですか!約束と違うじゃないですか!」って言うと、「除草剤は農薬じゃなくてホルモン剤だ」って、とぼけたり逆ギレされたり。それで取り引きを解消したら、「あそこの会社は買うって言ったのに買わない。嘘つきだ」と噂を広める。ほかにも、納品して1ヵ月も経ったジャガイモについて「腐ってるから、赤伝票切れ(売上伝票を取り消せ)!」って苦情言われたり…。理不尽ですよね。
もっと生産者やお客さん一人ひとりと顔を合わせて、信頼関係を築いていきたいって思うようになりました。商品を右から左へ動かすんじゃなくて、八百屋のオヤジになりたかった。母に相談したら、「私も食材の大切さをみんなに伝えたい」って言うので、一緒に店をやることになったんです。それが「サン・スマイル」の始まりです。

がむしゃらに突き進んでいるうちに信頼関係ができていった

自宅のガレージに棚をつくって商品並べるところから始まって、貧乏しながら無店舗で5年間やりました。初めの頃、来客数は1週間に1人か3人。「うわーっ!お客さん来たー!」って緊張してた(笑)。仲間に声かけてもらって人を集めて、共同購入のようなかたちで農産物や調味料などの自然食品を販売していました。住宅ローンでいまの場所に店をつくってからは、私と姉とスタッフの3人で死にものぐるい。毎日、夜10時に片付け終わったあとにチラシ配り。帰るのは深夜。過労で血尿は出るし、スタッフも倒れるほど。
でも、とうとう3ヵ月目に支払いができなくなってしまった。そのときに、どうせ潰れるんだったら精いっぱい好きなようにやろう。悔いを残さないようにしようと覚悟を決めた。
出荷先がなくて困っている農家さんの農産物を引き受けて、売り先を見つけるために高速バスを乗り継いで全国を走り回ったりしました。気がついたら「卸」もやるようになっていた。そんなふうにがむしゃらに突き進んでいるうちに信頼関係ができてきて、少しずつ売上が伸びていったんです。

木村秋則さんに頼らず「我々がやる!

農業には「豊かさ」があると思うんです。
自然がもたらす恩恵も恐怖も含めて、農業以外の仕事では
感じることができない豊かさです。
肥料と農薬に頼らない自然栽培は特にそう。
それは、
都会で暮らしている人たちも
“食べる”ことで
感じることができるはずです。
「豊かさ」を伝えられる生産者を
応援していきたい。

一方で、新規就農者や目先の利益を求めて
自然栽培に関わる人の中には、
農業を安易に考える人も少なくありません。
木村秋則さんに頼る人も多い。
たとえば、商品に「奇跡のリンゴの木村秋則」と冠したりする。
木村さんの名前を付けることで、
かえって自立できなくなるんじゃないでしょうか。
それをしている限り、木村さんのリンゴは売れても
自然栽培の農産物は本当の意味で普及しません。
私が関わっている生産者さんたちは、
木村さんに頼らないで
やっていくことで自立しています。

「木村さんに追いつくんだ」「我々がやるんだ」
という気持です。

そして、
いいものを作り続けている人に共通しているのは謙虚であること。
作物に対しても、自然に対しても、お客さんに対しても謙虚です。
「俺は、自然栽培を5年やってるんだ」などと言って威張ったりしない。
農業っていうのは50年、60年やっているおじいちゃんが、
「まだ60回しかつくってない。毎年1年生」って
言うような世界ですから。

美味しいものを食べたらみんな笑顔になる

いま、生産の現場と消費者の感覚がずれていると感じます。自分たちが食べているものが、どうやって作られているのかを知らない。そのことを本当に理解してもらうためには、食べる人の“感覚”を養っていくことが大事だと思っています。この仕事を始めた頃は、お客さんに農薬や添加物の有害性を語っていました。ところが、買ってくれても続かない。

理屈じゃなくて、“美味しさ”を知ってもらうほうがいいと気がついたのは、私自身30代になってからです。心を込めてつくっている自然栽培の野菜を食べると美味しくてびっくりしますよね。すぐにわからなくても、食べ続けていくと、ある日スーパーの野菜を食べたときに、違いを“感覚”でわかるようになる。

それで、屋号に「おいしいはしあわせ」を入れたんです。もともと、このキャッチコピーを使っていた店があったんですが、そこが店をやめてしまったんで、許可を得て使わせていただいた。とにかく、本当に美味しいものを食べよう!っていうことです。
どんな人でも、旨いもの食べたらみんな笑顔になる。それが自然栽培の農産物だったら、地球環境からみても永続性があるから、未来のしあわせにつながるじゃないですか。
地球をひとつの生命としてみる「ガイア理論」というのがありますが、私は、間違ったことをしていたら“地球上に残らない”って思っているんです。ということは、今年、会社が15期に入ってなんとなく成り立っているサン・スマイルは、存在を許されているのかもしれない(笑)。

いま取引先は問屋さん入れたら300件。生産者さんは70戸くらいで、そのうち自然栽培の農家さんは約40戸です。本当は一生、八百屋のオヤジでいたかったんですけどね。
でも、私にとってこの仕事は天職。自然栽培に関われて本当に幸せだと思ってます。

松浦智紀 (まつうら とものり)
1975年生まれ
埼玉県富士見市生まれ。九州東海大学農学部農学科卒。
大学卒業後、福岡県久留米市の食品会社(流通・小売り)に就職。
その後帰郷して、(有)サン・スマイルを起業。現在、同社代表取締役。
他に、いのちと食(代表)、元気な八百屋ゆうきの会(理事)、NPO全日本健康自
然食品協会NAFRES埼玉(支部長)、nico(会長)などを歴任。現在もNPO木村
秋則自然栽培に学ぶ会(理事)など多くの会で中心的な役割を果たす。
趣味は自社自然栽培農園の農作業、旅行など。埼玉県ふじみ野市在住。