土・腸・生命科学
「食べるとはどういうことか」動的平衡という考え方
自分が食べた「食べ物」は、体のどこに行くのか。車のガソリンのようにエネルギーとして燃焼され、不要なものは便として排出される──そう思っている方が多いかもしれません。今から70年ほど前、この疑問に真剣に取り組んだ科学者がいました。ルドルフ・シェーンハイマーです。
彼は食物の粒子に印をつけ、マウスを使ってその粒子が体のどこに行ったかを追跡する実験を行いました。結果は意外なものでした。食べた食べ物の半分以上は燃やされることなく、マウスの体の尻尾の先から頭の中まで、体のあちこちに溶け込んで、マウスの一部に成り代わっていたのです。
つまり食べ物を食べるということは、自動車にガソリンを注ぐのとは違って、自分の体を入れ替え、作り替えているということなのです。食べ物を構成する原子や分子が体の一部になり、一方で体を作っていた原子や分子が分解されて捨てられている。この絶え間ない分解と合成の流れを「動的平衡」といいます。

「食べ物はあなたを作る」というフレーズが、文字通り分子レベルでも実証されていたのです。そして生命は、新しい細胞を合成する前に必ず「分解」を先に行います。出さないと入ってこない。まず流れを作ることが、生命の本質なのです。
数か月で人間の細胞が生まれ変わると言われるのも、この動的平衡のイメージで理解できます。あなたは今日食べたものでできている。逆に言えば、食を変えれば、体は変わるのです。
